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【腰痛予防】座り姿勢の改善と腰痛予防のためのエクササイズ | MEDIAIDクリニック |
【腰痛予防】座り姿勢の改善と腰痛予防のためのエクササイズ
監修:小澤 静
(おざわ しずか)
鍼灸師、柔道整復師、腰痛運動療法指導士、PHI Pilates MATI/II Instructor
腰専門のコンディショニングスタジオであるSPINE CONDITIONING STATIONにて、数多くの腰痛者に対する施術を担当。
はじめに
「悪い姿勢で座っていると、腰痛になるって本当?」「良い姿勢で座っているはずが、気がついたら猫背になっていて腰が痛い…」。そういった悩みはありませんか?
なかなか治らない腰痛の原因は、普段の座っている時の姿勢にあるかもしれません。
今回は、一般的に良い座り姿勢をとるコツや良い姿勢を保つためのエクササイズをご紹介します。座り姿勢を改善して、腰痛を予防しましょう。
腰痛がつらい…良い姿勢で座っていますか?
「腰痛がつらい」と感じる人は、まずは自分の座り姿勢を確認してみましょう。
左上のイラストのように良い姿勢で座っていますか?それとも、右上のイラストのように猫背になっていますか?
悪い姿勢になっている人は注意が必要です。
はじめに良い座り姿勢をとるポイントをチェックしましょう。
良い座り姿勢とはどんな姿勢?
- 背骨のS字カーブを保つ
- 骨盤の一番下にある骨(坐骨)の真上に上半身の重心が乗っている
この2つのポイントを守ると、背骨や筋肉に負担がかかりにくい状態で座れます。
背骨が首から腰にかけて「S字に曲がっている」ことで、体重による負担が腰など一点にかからないように分散させています。
しかし、背中が丸くなったり、足をくんだりして座っているとS字カーブが崩れてしまい、背中のある1点に負荷が集中したり、まわりの筋肉が無理をしてしまったりすることで腰痛につながります。
腰痛を防ぐためには良い座り姿勢を知り、実践することが大切です。
良い座り姿勢づくりの3つのポイント
- 骨盤を立てる
- 背骨の自然なS字カーブを保つ
- 頭を正しい位置に保つ
良い座り姿勢をつくるには、上記の3つのポイントが重要です。
3つのポイントの詳細と、改善のためのエクササイズ方法を紹介します。
1.骨盤を立てる
姿勢改善の第一歩は、骨盤を整えることです。
座り姿勢の土台である骨盤が傾いていると、その上の背骨を整えても姿勢が崩れてしまうことがあります。
良い座り姿勢を習慣にするためには、骨盤を上手に立てることから始めましょう。
あなたはどのタイプ?今の「骨盤のタイプ」を確認しよう
骨盤を立てるために、自分の座り姿勢の「骨盤のタイプ」を確認しましょう。
チェックするポイントは「骨盤の傾き」です。
骨盤は座り姿勢の土台となるため、良い姿勢を意識するには、骨盤を正しい位置に保つ必要があります。
骨盤のタイプをチェックする方法
- 椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばして座る。お尻の少し前に両手を入れて、坐骨(硬い骨)を探す
- 坐骨に触ったら、骨盤を前後に倒すように意識しながら、上半身を前後に傾ける
- 上半身を前後に傾けることで、坐骨に手が当たったり、離れたりする感じを確かめる
- いつもの座っている姿勢になり、「手に坐骨(硬い骨)が当たっているかどうか」「当たっていない場合は骨盤が前後どちらに倒れているか」を確認する
骨盤には3つのタイプがある
上記の方法で、3つの骨盤のタイプに判別できます。
- 理想のタイプ(骨盤がまっすぐに立っていて、坐骨が座面にしっかり当たる)
- 骨盤後傾タイプ(骨盤が後ろに寝て、坐骨が座面に当たらない)
- 骨盤前傾タイプ(骨盤が前に倒れて、坐骨が座面に当たらない)
1の骨盤が立ち、坐骨が座面にしっかりと当たっている人は、良い姿勢(理想のタイプ)で座っています。
坐骨は骨盤の下に位置し、座った時に座面に接して体重を支える役割があるため、上半身の負荷をしっかり受け止めることができます。
一番多いのは2の骨盤が後ろに傾いている骨盤後傾タイプです。
このタイプは上半身の負荷を受け止めることができず、背中が丸くなり猫背になりやすい状態です。
3の骨盤前傾タイプは、骨盤が前に傾いているために坐骨が座面に当たらず、負担のかかりやすい姿勢です。
骨盤前傾タイプは背筋が過剰に働いてしまう人が多くみられます。
2と3の人は、坐骨が椅子の座面に当たるように意識し、骨盤を立てて座るようにすることが重要になります。
2.背骨の自然なS字カーブを保つ
2つ目のポイントは、背骨の自然なS字カーブを保つことです。
骨盤が立っていても、その上にある背骨がS字カーブを保てず猫背になっていると、上半身の重さにより生じる負荷に身体が耐えられません。
また、普段から猫背でいることが多い人は背骨まわりの筋肉が硬くなってしまい、伸びにくくなります。
まずは、背骨の動きを柔らかくするエクササイズをご紹介します。
背骨の動きを柔らかくするエクササイズ
- 四つ這いの姿勢になる
- 両手を伸ばして胸を床につけ、背中を反らせる
- そのまま10秒キープする
- 手を使ってゆっくり元の四つ這いに戻る
- 1~4を3回繰り返す
ポイントは、背中を反らせる際にお尻の位置を変えずにエクササイズをすることです。
回数を重ねるごとに徐々に動作を大きくして3回繰り返します。
胸の前の筋肉がじわじわ伸び、徐々に背骨が柔らかく動くのを感じながら行いましょう。
S字カーブを保つエクササイズ
次は背骨の「S字カーブ」を保つエクササイズです。
- フェイスタオルを用意して、骨盤を立てて椅子に座る
- 首の後ろにタオルを当てて、胸を張るように両側の肩甲骨を寄せる
- 肩甲骨を寄せたまま、タオルを真っすぐ上げる
- タオルを2の位置に下ろす
- タオルの上げ下げを10回繰り返す
このエクササイズのポイントは、肩甲骨 (けんこうこつ) の内側にある菱形筋 (りょうけいきん) という筋肉を意識しながら動かすことです。
菱形筋とは
菱形筋とは、左右の肩甲骨の内側にある筋肉です。肩甲骨を内側に寄せ、胸を開くサポートをします。
菱形筋を鍛えることで、背中が丸くなるのを抑制することができます。
3.頭を正しい位置に保つ
良い姿勢をとる3つ目のポイントは頭を正しい位置に保つことです。
骨盤や背骨を整えても、頭の位置が前に出てしまうと頭の重みで背中が丸まってしまいます。
次のエクササイズで頭を正しい位置に保ちましょう。
頭を正しい位置に保つエクササイズ
- 骨盤を立てて座る
- 正面を向いた状態で、人差し指であごをまっすぐ後ろに押し、頭を背骨の真上に乗せる
- 頭を動かさず、そのまま5〜10秒キープする
コツはあごをまっすぐ後ろに押すことです。悪い押し方は、あごが下向きになるように押している状態です。
慣れてきたら、指で押す力を弱めて、自分の力であごをまっすぐ引くように練習しましょう。
頭を支える深部の筋肉が鍛えられ、頭を正しい位置に保てるようになります。
姿勢は気がついた時に直すぐらいがちょうど良い!
最初は意識して良い姿勢で座っていても、デスクワークや在宅勤務などで長時間椅子に座って仕事をしていると、良い姿勢をとり続けるのは難しいでしょう。
しかし、良い姿勢はとり続けなくても問題ありません。「姿勢は気づいた時に直す」ぐらいが、継続しやすいと言えるでしょう。
それでも、「気がついてもなかなか良い姿勢に戻せない」と思っている人に、良い姿勢をとる“カンタン技”を紹介します。
良い姿勢のとり方は?“カンタン技”をマスターしよう
-
1.椅子に座り、あえて悪い姿勢をとるように上半身の力を抜く
-
2.そのまま上体を前に倒して、骨盤をしっかり前傾させる
-
3.両方の肩甲骨を寄せる
-
4.元の姿勢にゆっくり戻る
この方法は椅子に長時間座っていて姿勢が悪くなってきた時に、一旦姿勢をリセットする方法です。
この手順で座り直せば、力まず良い姿勢をとることができます。
まとめ
コロナ禍でデスクワークや在宅勤務などが増え、長時間椅子に座ることが増えたという人も多くいると思います。
長時間椅子に座ることによって、徐々に悪い姿勢となり、腰痛が出ることもあります。
そのため、骨盤から整える良い座り姿勢のとり方を知って、日頃から腰痛を予防することが重要です。
「良い座り姿勢」と聞くと、高い意識と難しいエクササイズが必要と感じるかもしれません。
しかし、気がついた時に姿勢のリセットを行い、エクササイズもできるタイミングで取り組めば問題ありません。
本記事でご紹介した姿勢のリセット方法と3つのエクササイズを実践して、姿勢改善と腰痛予防をしましょう。
腰に向き合って40年。医療機器メーカーが一流の医学専門家と取り組む、
腰のコンディショニングスタジオ「SPINE CONDITIONING STATION」。
「手」の痛み診療室 | MEDIAIDクリニック |
「手」の痛み診療室
監修医:平田 仁
(ひらた ひとし)
名古屋大学大学院医学系研究科 個別化医療技術開発講座 特任教授、人間拡張・手外科学講座 前教授
1982年三重大学医学部卒業。三重大学医学部附属病院を経て、1996年学位(医学博士)取得。その後、名古屋大学大学院医学系研究科運動・形態外科学手の外科学教授、名古屋大学予防早期医療創成センター教授を歴任。2022年4月より、名古屋大学大学院医学系研究科 個別化医療技術開発講座特任教授。手外科、マイクロサージャリー、末梢神経外科を専門とする整形外科医。
手の痛みを感じたら
はじめに
手や指は、繊細な動きが要求され、鋭敏な感覚を持ちます。指の感覚は人体で最も鋭敏で、指で物を持つだけで立体的に物体を認識する立体認知機能を備えています。そのため、手や指の痛みがあると気付きやすく、また日常生活にすぐに影響が出てしまいます。特に重要な手の機能としては、つまむことと握ることです。
ある論文*では、生活に影響を与える痛みについての総数のうち、
・腰痛の割合は37.7%(男性34.2%、女性39.4%)
・膝痛は32.7%(男性27.9%、女性35.1%)
・股関節痛は1.86%(男性0.58%、女性2.56%)
・手の痛み7.4%(男性5.7%、女性8.2%)
※吉村 典子(2020)ペインクリニック 41,862-866 真興交易医書出版部
であるとされています。股関節よりも手の痛みを感じている人の割合は多く、また男性よりも女性のほうが手の痛みを抱えていることが分かっています。
ここでは、手の痛みとその構造、次に症例のメカニズムと治療・ケアについて解説します。
手の痛みの特徴
手は繊細な作業や重いものを持ち上げることができます。それだけに手首や指の関節・靱帯・腱・腱鞘などの負担は大きくなります。そのため、関節の変形や靱帯の肥厚(腫れて厚くなること)、腱鞘炎が起きやすい部位であり、手をよく使う方ほど痛みが生じるリスクは高くなります。また、感覚も鋭敏なため、少しの痺れでも気付くことが多いです。特に仕事で手をよく使う方や更年期、周産期の女性が手の痛みに悩まされることが多くあります。
治療・ケアの動向
手の痛みの原因はさまざまであり、痛みや痺れを感じる組織としては、骨や関節、靱帯、腱、腱鞘、筋肉、神経、血管などがあります。痛みと一概にいっても原因は様々です。医師は痛みの部位を詳細に観察する視診や、押したり動かして状態を評価する触診、さらにレントゲンや超音波画像診断装置、時にはMRIなどを用いて、それが関節炎なのか、神経痛なのか、腱鞘炎なのかを正確に判別していきます。痛みが強い場合や症状が長く続く場合には、自身で判断せず医療機関を受診しましょう。
- ・骨の痛みとしては、外傷性の骨折や病的骨折、骨腫瘍、骨髄炎などがあります。
- ・関節の痛みとしては、変形性関節症(変形性手関節症、母指CM関節症など)や関節リウマチ、痛風、偽痛風、感染性関節炎などがあります。
- ・靱帯や腱、腱鞘の痛みとしては、靱帯損傷や腱断裂、腱鞘炎(ばね指、ドケルバン病)などがあります。
- ・神経痛としては、神経根障害や絞扼性神経障害、ガングリオンによる神経圧迫によるものなどがあります。
- ・血管の痛みとしては、膠原病に伴う血管炎による血行障害、またリンパ浮腫などがあります。
以下では代表的な疾患ごとに解説していきます。
手の痛み 代表的な症例とケア
腱鞘炎
症例概要(症状・リスク)
腱とは筋肉が骨に付着する部分の結合組織であり、腱鞘とはその腱が通るトンネルのことです。腕や脚では、関節を曲げ伸ばしする筋肉の多くが前腕(肘と手首の間)や下腿(膝と足首の間)にあり、そこから長く伸び出た腱が滑走して関節を動かします。腱鞘は腱の浮き上がりを防止する組織であり、滑車のような役割をするもので、その多くは関節の近くにあります。そのため手足を動かすたびに腱鞘には大きな力が加わります。
腱鞘炎とは、その腱鞘に炎症が生じた状態で、炎症を起こした部分での腫れや痛み、動く範囲の制限がみられます。指の腱鞘炎としてばね指、手首の腱鞘炎としてドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)があります。一般に更年期や出産前後の女性、糖尿病やリウマチのある方、手をよく使う方に起こります。
ばね指の症状としては、手のひら側の指の付け根(MP関節)に痛みが起こり、動かしたときに痛みを感じます。親指が最も起こりやすいです。特に朝方に症状が強く、動かしているうちに症状が軽減することがあります。症状が進行してくるとその名の通り、ばね現象(弾発現象)が起こり、さらに進行するとPIP関節が曲がったまま動かなくなります。
ドケルバン病は手指をよく使う女性に起きやすく、症状としては、手首の親指側の痛みと腫れがあります。特に手首を小指側に曲げたり、親指を動かしたりしたときに痛みを伴います。原因として手指を使いすぎた機械的刺激に、閉経や妊娠などホルモンバランスの崩れが重なるためと考えられていますが詳細は不明です。
治療・ケア
ばね指の治療としては、安静や痛み止めの外用・内服、腱鞘内注射、手術があります。ドケルバン病の治療としては、安静や装具による固定、腱鞘内注射、手術があります。装具としてのサポーターは、手首を安定化させ、動きをある程度制限することで痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、手首の小指側への動きを制限できる親指までサポートがついたものが良いでしょう。
- ①圧迫機能
サポーター本体で手首を圧迫することで関節を安定させます。 - ②支持・安定機能
サポーターのサポートによって関節の安定性を生み出し、手首の動きを適度に制限します。 - ③保温機能
手首を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐします。
注射はステロイドと痛み止めを混ぜたものを打つことが多いです。注射をして2ヶ月以内の短期間に再発する場合や、3回以上注射をしても再発する場合は腱鞘切開などの手術を検討します。
その手首の痛みは“スマホ腱鞘炎”?
「スマホ腱鞘炎」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。スマートフォンの長時間操作で親指を使いすぎることで腱鞘炎(ドケルバン病)を起こしやすくなります。整形外科に手首の痛みを訴えて来られる方の原因を探ると、実はスマートフォンが原因だったというケースが増えています。
これを予防するには、
- ・スマートフォンを触る時間を減らす
- ・両手で操作する
- ・強く握りしめすぎない
といったことが挙げられます。
日常生活に支障が出ないようにこれらの予防を行い、症状が悪化した場合は医療機関を受診しましょう。
TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)
症例概要(症状・リスク)
TFCCとは、手関節の尺骨と手根骨(月状骨・三角骨)の間にあるハンモック様構造の軟部組織のことです。クッションの機能をつかさどっていますが、転倒により手をついたり、手首をひねったりすると損傷します。 症状としては手首の小指側の痛み、握力低下、前腕を回したときの痛みやコキっというクリック音が生じます。タオルを絞る動作やドアノブを回す動作で痛みが誘発されます。
治療・ケア
レントゲンでは診断できず、特殊なMRIの撮影方法により描出する必要があります。TFCC損傷には装具治療で治癒するものから手術が必要となるものまで様々なタイプのものがありますが、MRIではそれらを判別することはできないため最終的な判断には内視鏡検査が必要になります。
TFCC組織は一般的にはあまり知られていませんが、手首の安定に大きく関与しています。そのため、治療として手関節を安定させるためにギプスやTFCC損傷用のサポーターを装着する保存的治療を2~3ヶ月行い、それでも症状の改善を認めない場合は手術が検討されます。手術では損傷部位を確認し、TFCC縫合や再建術が行われます。サポーターは、手首を安定化させ、動きをある程度制限することで痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、手首全体を包むサポートがついたものが良いでしょう。
- ①圧迫機能
サポーター本体で手首を圧迫することで関節を安定させます。 - ②支持・安定機能
サポーターのサポートによって関節の安定性を生み出し、手首の動きを適度に制限します。 - ③保温機能
手首を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐします。
手根管症候群
症例概要(症状・リスク)
女性の妊娠・出産期や閉経前後に多いのが特徴です。他にも仕事やスポーツ、家事などでよく手を使う方や、関節リウマチ、透析、ガングリオン、骨折などでも起こりやすくなります。
症状は、正中神経という神経の支配領域である親指から薬指の半分(親指側)の痺れや痛み、感覚低下が起こります。特に寝るときや早朝に痛みが出やすいです。手根管症候群が進行してくると親指の付け根の母指球が萎縮し、つまみ動作が困難となります。
治療・ケア
治療は、症状が軽度であれば痛み止めやビタミンB12の飲み薬、また手をよく使う方はその負担を減らしてもらうようにして装具を使用することがあります。装具としてのサポーターは、手首を安定化させ、保温によって痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、手首を包み込むものが良いでしょう。
- ①支持・安定機能
サポーター本体で圧迫し適度に制限することで手首を支持・安定させます。 - ②保温機能
手首を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐし、神経の通り道が広がりやすくなります。
症状が強い場合や薬を飲んでも効かない場合は手根管を開放する手術が必要となります。親指の付け根の母指球が萎縮しているものに関して母指対立再建術が必要となることがあります。
ストレッチ方法
母指CM関節症
症例概要(症状・リスク)
親指は指の中でも重要な指であり、動く範囲が広い分、不安定になりやすく、母指CM関節は特に変形性関節症になりやすい関節です。つまむ動作や瓶の蓋を開ける動作に親指の付け根が痛くなります。閉経後の中年以降の女性に多いとされています。
治療・ケア
症状が軽度のときは、痛み止めの外用・内服やテーピング、装具固定、関節注射を行います。症状が重症のときは、靱帯再建術や関節固定術、関節形成術などの手術を検討します。装具としてのサポーターは、手首を安定化させ親指の動きをある程度制限することで痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、親指の動きを制限できるサポートがついたものが良いでしょう。
- ①圧迫機能
サポーター本体で親指の付け根を圧迫することで関節を安定させます。 - ②支持・安定機能
サポーターのサポートによって母指CM関節の安定性を生み出し、親指の動きを適度に制限します。 - ③保温機能
親指の付け根を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐします。
ヒトが重力に対して楽な姿勢を維持するしくみ
ヒトが重力に対して
楽な姿勢を維持するしくみ
テレワークの普及が進み、猫背や肩こり・首こりなど、姿勢に関するお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。今回は、私たちヒトの姿勢の仕組みや身体にかかる負担について、人類進化生体力学の専門家である荻原直道先生にお話を伺いました。私たちの猫背や肩こり・首こりといった姿勢の悩みには、実は重力が大きく関係しているようなのです…!
教えてくれた人:
荻原直道 先生
(おぎはらなおみち)
東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 教授
「避けることができない重力の影響」
今回のテーマについてお話しするには、まずヒトの成り立ちについて理解してもらう必要があります。
約46億年前に誕生した地球に、最も原始的な生物が誕生したのが約38億年前のことです。その後多細胞生物が誕生し、植物・動物は陸に上がり、生物は多様に進化しました。
その中から哺乳類、さらにはサルの仲間(霊長類)が誕生し、その中の一員として、常習的に二足で歩く霊長類、すなわちヒトが誕生した、というわけです。
こうして地球上に誕生し、そこで生活する以上、好むと好まざるとにかかわらず、私たちの身体には常に重力が作用しています。
普段の生活において私たちが重力を意識することはほとんどありませんが、実際にはかなり大きな力が作用しています。自分の体重と同じ重さの荷物を運ぶことを考えると、私たちの身体に作用する重力が極めて大きいことに気づかされます。
また、宇宙飛行士が長い間宇宙空間に滞在すると、宇宙空間では重力が身体に作用しないため骨や筋が衰えてしまい、地球に帰ってきてから長期のリハビリテーションに取り組まなくてはならないことからも、地球上で身体に作用する重力がいかに大きいかが想像できますね。
それでは、地球上で進化してきた私たち人類は、身体に作用する巨大な重力に、どのように適応しているのでしょうか?
進化は、環境への適応の結果、生物が世代を経るにつれて変化していく現象です。ヒトにおいてもそれは例外ではありません。私たちの身体は、進化の長い道のりの中で、重力環境への適応を積み重ねながら形作られてきました。
地球上に暮らす以上は逃れることのできない重力環境への適応という観点から、ヒトの身体構造の進化、そして姿勢を維持するための仕組みと負担について、詳しく解説していきましょう。
「直立姿勢は本来“楽”な姿勢?」
ヒトは、二足で立ち、歩く能力を獲得したことで、前足(=腕)を体重支持から解放し、その後の進化の過程で、道具を作ったり使ったりできる器用な手、さらには、四足姿勢では支えることが相対的に難しい、大きな頭部(脳)を獲得することが可能になりました。つまり、ヒトを、他の生物、特に他の霊長類と分け隔てる最も根源的な特徴は、直立姿勢、および直立二足歩行の獲得にあるのです。
しかし、力学的には本来不安定な直立二足姿勢を、なぜヒトは獲得することができたのでしょうか?
図1と2はヒトと、ヒトに最も生物学的に近いチンパンジーの骨格の比較です。比べてみると、私たちヒトの頭部および脊柱(背骨)の形態は、直立姿勢に適応して極めて特殊化していることに気づかされます。
まず、動物の頭蓋骨には、大後頭孔と呼ばれる大きな穴が存在し、脳からつづく脊髄(中枢神経の束)がここから頭蓋骨を出て、脊柱の中を通って背中の下まで通り、身体各部の筋、感覚器官や皮膚と連絡します。二足で立ち・歩くヒトの場合、背骨は頭部の真下に垂直に伸びているので、この大後頭孔という穴は頭蓋骨の底面の比較的中心に位置しています。それに対して、チンパンジーやニホンザルなど四足姿勢の動物は、背骨が頭部から相対的に水平に伸びるため、この穴は相対的に後ろの方についていることがわかります(図1)。
また、ヒトとチンパンジーの背骨の形を横から見ると、チンパンジーなどヒト以外の霊長類では背骨全体として相対的に後弯(後方に凸のカーブ)するためC字状になっているのに対して、ヒトでは仙骨から緩やかに前弯(前方に凸のカーブ)した腰椎、後弯した胸椎、前弯した頚椎が連なり、S字状に弯曲していることがわかります(図2)。その結果、頚椎の上に乗る頭部の重心、および体幹の重心が、ほぼ股関節の真上に位置しています。さらに、膝関節・足関節・足部もほぼ股関節からの垂線上に位置しているのです。
このように下腿部・大腿部・体幹・頭部が足部の上に同一直線上に存在していれば、理論的には筋力を働かせることなく、その姿勢を保持できることになります。もちろん、厳密には各関節の位置は重心投影線上より若干前方、もしくは後方に位置しており、また構造的に不安定でもあるため、静止立位姿勢を保持するには筋力を働かせる必要があるのですが、このような立位姿勢のアラインメント(位置関係)によって、その筋力はかなり小さくすむことになります。実際に、立って静止している時の消費エネルギーは、横になっている時のエネルギー消費と比較するとわずか7%増にしかならないことからも、ヒトの直立姿勢は、本来負担の小さい楽な姿勢であることがわかります。
「安定だけど不安定??重力によって首にかかっている負担の大きさは?」
以上のように、基本的にはヒトの身体は直立二足姿勢に適応していて、本来は極めて小さな負担で静止立位を保つことが可能です。
しかし、当然ですが現代社会に生きる私たちは、「立って歩いている時間」よりも、圧倒的に「座って作業している時間」が長いです。また最近は電車やバスでの移動中もスマホ等を操作している方がほとんどだと思います。こうした状況が、身体にそれなりの負担をもたらしていることになります。
ヒトの頭部は、静止立位において、頚椎の真上に乗っかり、頭の重心が首の関節点の真上に基本的には位置しています。(図3a)。この状態は、支点よりも重心が高い位置にある振り子と同じ状態です。これは本質的には不安定な状態なので、ちょっとした力が作用すると頭は倒れてしまいます。これを安定させるためには、主に首の後ろの筋肉(頭と背骨をつなぐ筋肉)によって頭部を後方に引っ張り、前方に倒れないようにする必要があります。もし、首の関節点の真上に頭部の重心が存在する安定した状態にあるのであれば、理論的には筋力を発揮する必要はありません。
しかし、ノートパソコンやスマホ画面のように視線を下に向ける必要がある場合は、頭部を前傾させる必要があります(図3b)。この状態では、頭部の重心に作用する重力が首の関節点から離れたところを通るため、頭部を時計回りに回転させる力(力のモーメント)が生じてしまいます。
この姿勢を安定に保持するためには、これとバランスする筋力を発生させる必要が出てきます。これは基本的にはシーソーと同じです。シーソーの右側にだけ重りを乗せると、シーソーは時計回りに回転します(図4a)。シーソーをバランスさせるには、左側の支点から同じ距離だけ離れた場所に重りを乗せる必要があります(図4b)。つまり頭部が前傾することで重心が前に移動するとき、左に乗せた重りの分だけの筋力が必要となるわけです。ここで重要なのは重り、つまり力が作用する位置です。支点からの距離が同じであれば、同じ質量の重りを乗せれば釣り合いが取れますが、右の重りを二倍離れた距離に乗せた場合、この原理で左側には2つの重りを乗せないと釣り合いません(図4c)。頭部を前傾させると重心は前に移動しますが、首の後方の筋と首の回転中心(支点)の間の位置関係は基本的には変化しません。首の前傾に伴いより大きな筋力が必要となるのはこのためなのです。
「頭を傾けると首の筋は大きな力を発揮する」
実際にこの筋力がどれくらいか見積もってみましょう。
頭部の質量はもちろん人によって差はありますが、おおよそ体重の約8%と言われています。つまり体重60kgだと頭部の重さは5kg。そして首が前傾するときには、首の後ろの筋の引っ張り力によってこの姿勢を保持する必要がありますが、たとえば首が30度前傾した時にこの姿勢を保持するには、なんと12.5kg相当の力が必要となります。(図5)首の後方の筋は実は結構大きな力を発揮して頭部を支えていること気づかされますね。この筋力の大きさは基本的には首の角度によって変化しますが、首の前屈角度が60度になった場合は、約20kg相当の力になるなど、首の前傾角度が大きくなるほど大きくなります。したがって、例えばノートパソコンでの仕事のように首を前傾させる作業姿勢を長年続けていると、首や肩の痛みなど慢性的な筋骨格系疾患を発症するリスクを高めることになるわけです。
一方で図6を見ると、頭部の前傾を心持ち小さくすることによって、筋への負担・疲労をかなり低減することが可能であることもわかります。例えば首の前傾角度を15度にすれば、筋力つまり負担は30度の時の約半分となります。首をなるべく前傾させないようにディスプレイの高さを変更するなど、ちょっとした日常の行動を変えることが、負担を減らす上で重要かつ効果的であることがわかると思います。
「重力の影響は当然首以外にも...腰にかかる負担はどれほど?」
同様のことは、腰部にかかる負担についても当てはまります(図7)。
体幹を前屈させた姿勢を安定化させるためには、重力が作用するため前方に回転しようとする体幹を、脊柱起立筋という腰部の後ろにある筋で支える必要があります。
体幹は頭部よりも大きくて重く、重心が腰部関節点からより遠いところに位置しているため、脊柱起立筋が発揮しなくてはならない筋力は非常に大きくなります(体重60kgの人が30度前屈したとき約80kg相当の力)。またこの筋力が極めて大きいため、椎間板(1つ1つの背骨の間にありクッションのような働きをする軟骨組織)に作用する圧縮力も非常に大きくなります。
したがって、作業台が低いなどの理由で前傾姿勢を長時間続けていると、首にかかる負担で説明したのと同じように、腰痛など慢性的な筋骨格系疾患を発症するリスクを高めことにつながるのです。
このことからも、基本的には正しい姿勢、すなわち体幹をなるべく前傾させず、身体を垂直位に保つことが身体への負担を低減する上で重要であることがわかると思います。
「重力のない宇宙空間では、ヒトの姿勢はどうなるか?」
いままで見てきたように、重力が作用している地球上においては、私たちの身体は基本的には垂直に保つほうが負担を減らすことができる構造になっています。では重力が働かない宇宙空間においては、ヒトはどのような姿勢をとると負担の少ない楽な姿勢になるのでしょうか?
「ヒトが宇宙環境に滞在し、無重力環境で作業を行うにはどのような姿勢が適切なのか?」このことを人間工学的に解明するために、実はこうした研究が40年以上前に行われています。具体的には、宇宙ステーションにおいて搭乗員が空中に浮かび脱力したときの姿勢を観察する、という実験です。実際に計測すると、図8aのような頭部を少し前傾、股関節と膝関節を少し屈曲、肘関節を曲げ、わきを少し開いた中立姿勢と呼ばれる姿勢をとることが報告されています(水中で脱力した姿勢を想像してみてください)。このとき背骨の頚椎と腰椎の前弯が小さくなることが知られています。現在ではこの中立姿勢を運転中の疲労を低減させる自動車シートの設計などに応用する試みも進んでいます。
しかし、無重力状態で楽な姿勢が必ずしも地球上で楽であるわけではありません。中立姿勢は若干猫背のような姿勢ということになりますが、例えば図8bのようにこの姿勢で立位を保とうとすれば、先に説明したように頸部・腰部に大きな負担がかかってしまうことになります。
中立姿勢はあくまでも重力場に適応して進化したヒトの身体が、宇宙空間において脱力したときにとる負担のない姿勢であり、当然のことながら重力環境下においてこの姿勢が必ずしも力学的に合理的であるわけではありません。
「私たちのカラダには常に重力が作用している!」
今回は、「重力環境への適応」という観点から、ヒト、つまり私たち自身の「身体の構造とその姿勢維持のための力学負担」についてお話ししました。
普段の生活において、私たちが自分自身に作用する重力を意識することは日常あまりないように思いますが、今回お伝えした情報が「私たちの身体には常に重力が作用し、それが身体負担の要因となっている」こと、そして、「私たちの身体は、重力との調和の中で進化し、それに適応するように形づくられてきた」ことを意識するきっかけとなればと思います。
- 参考文献
- Aiello L, Dean C. An Introduction to Human Evolutionary Anatomy. London: Academic Press; 1990.
- Chaffin DB, Andersson GBJ, Martin BJ. Occupational Biomechanics. 4th ed. Hoboken: John Wiley & Sons, Inc.; 2006.
- Winter DA. Biomechanics and Motor Control of Human Movement. 3rd ed. Hoboken: John Wiley & Sons, Inc.; 2005.
- George C. Marshall Space Flight Center. Man/System Requirements for Weightless Environments. NASA MSFC-STD-512A; 1976.
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「ヒザ」の痛み診療室
監修医:石橋 英明
(いしばしひであき)
医療法人社団愛友会
伊奈病院副院⾧
整形外科部⾧
1988年東京大学医学部卒業。東大病院整形外科、三井記念病院整形外科勤務などを経て1992年に東京大学大学院入学、1996年同修了、学位(医学博士)取得。以後、米国ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)に留学、1999年より東京都老人医療センター(現・健康⾧寿医療センター)整形外科、2002年同医⾧、2004年より伊奈病院に勤務。人工関節手術、骨粗鬆症、関節リウマチなどを専門とする整形外科医。NPO法人高齢者運動器疾患研究所では、代表理事としてロコモや変形性関節症などに関する普及・啓発に努めている。
日本整形外科学会ロコモチャレンジ!推進協議会委員、日本整形外科学会専門医、日本骨粗鬆症学会評議員、骨粗鬆症財団理事。
ヒザの痛みを感じたら
はじめに
膝の痛みは、正しい知識を身につけることで予防や症状を軽くすることが可能です。
1950年に約410万人だった65歳以上の人口は、2020年には3600万人を超え、80歳以上の人口は1160万人となりました。
高齢者の数も増えていますが、寿命も延びています。
それぞれの年齢の人が、あと何年くらい寿命が残っているかを示す平均余命データからは、今の中高年女性は平均でも概ね90歳以上まで生きることがわかります。
男性も⾧生きすればするほど女性の寿命に近づき、男女とも90歳以上まで生きるのが当たり前という時代になりつつあります。
そして、要介護者も増えており、中でも足腰の問題を原因とする要支援・要介護者が増えています。
2019年の国民生活基礎調査では、要支援・要介護の原因は、認知症(17.6%)、脳卒中(16.1%)、高齢による衰弱(12.8%)、転倒・骨折(12.5%)、関節疾患(10.8%)で、関節疾患と転倒・骨折、つまり運動器の問題によるものを合わせると脳卒中、認知症を超えます。
年を重ねれば誰でも膝が痛む可能性がある訳ですが、膝の痛みが起こる仕組みについて正しい知識を身につけることで、早期に手を打って予防することや、痛みがある場合でも症状を軽くする事が可能になります。
ここでは中高年に多い膝関節の痛みとその構造、次に症例のメカニズムと治療、ケアについて解説いたします。
また、膝の痛みとして代表的な『変形性膝関節症』のメカニズム、治療、ケアについて分かりやすく説明していきます。
加齢に伴うヒザの痛みは、宿命!?
中高年の方で、膝痛に悩む人が多いのは、加齢とともに膝の軟骨が弱く、膝を支える周囲の筋肉が弱くなるためです。人間、歩いている限りは膝の軟骨に体重負荷がかかりますし、筋肉の収縮による圧迫力も受けます。40歳を過ぎたあたりからは、それまでと同じような仕事、生活、運動でも痛みなどの症状が現れてくる場合が増えてきます。つまり膝の痛みは、加齢による身体の変化と日常生活での負担という避けられない原因によって生じるということになり、ある程度、宿命と言えます。
さらに、女性の場合は閉経による影響もあります。
膝は負担がかかりやすい部位
膝は人間の体のなかでも、最も複雑で不安定な構造を持っています。
動きの中では支点として機能するため、負担がかかりやすく損傷が起こりがちな部位です。
体重や筋肉の圧迫による関節への負担は、サポーターを着用することで軽減が期待できます。
膝痛 代表的な症例とケア
変形性膝関節症
症例概要(症状・リスク)
軟骨の摩耗(すり減り)による炎症が痛みの原因です。進行すると、膝の動きは制限され曲げ伸ばしがしにくくなります。また軟骨の磨耗や関節変形が進むとO脚変形が生じます。
- <初期>立ちあがり、歩きはじめ、⾧く歩くと膝が痛む(休めば痛みがとれる)
- <中期>歩くと膝が痛み、正座、階段の昇降が困難(動作が不自由)
- <末期>変形が目立ち、膝の曲げ伸ばしがしにくくなり、歩行も困難(日常生活が不自由)
治療・ケア
病院で行われる治療は、その他の症例と同様に<保存療法><手術療法>があります。治療法の選択は問診・診療・検査の結果をもとに重症度(進行度)に応じて行われます。最も大事なケアは、早い段階で筋力をしっかりさせ、安定した動きで軟骨の磨耗を防ぐことです。ただし痛みや腫れが見られるような急性期においては患部に負担がかからないように安静にしましょう。
変形性膝関節症のメカニズム
痛みの原因は「炎症」
軟骨に負担がかかって磨耗すると、軟骨の摩耗片(削りかす)の分解物によって関節の中で炎症が起きることが分かっています。変形性膝関節症のメカニズムは図のような具合に進行します。
大腿骨とすねの骨(けい骨)は、関節包(かんせつほう)という包みに覆われています。体重の負荷などによって軟骨がすり減ると、軟骨の細かな「削りかす」によって、関節包の内側にある滑膜(かつまく) という膜に炎症が起きます。
炎症はもともと組織を修復するための反応で、膝の場合は削れた部分の軟骨を修復するために起きるのですが、炎症の過程で、関節周囲が腫れたり、痛んだりします。また、関節は関節包に包まれた袋になっています。この袋の中に常に数ccの関節液があり、軟骨に栄養や酸素を与えています。そして関節の中で炎症がおきると、この関節液が増えます。打撲したところが腫れるのと同じ理屈です。実は、この増えた関節液がいわゆる「水」というわけです。つまり「水」は炎症の結果です。また、膝の痛みも炎症の結果といえます。軟骨や骨には神経が通ってないので、軟骨が削れたから痛いのではなく、炎症が起きることで痛みが出てくるのです。
炎症が起きた状態で軟骨に負担をかけると、さらに軟骨が削れて、それがまた炎症の元になるという悪循環に陥ります。
若い人の軟骨は白く光沢があり、弾力もあります。それが加齢とともに、軟骨は黄色くなって、徐々に弾力がなくなってきます。そうなると軟骨が摩耗しやすくなります。軟骨が摩耗し、炎症がずっと続くと、レントゲンでも分かるくらいに軟骨が減ってきます。また、骨にも影響が出て、骨が硬くなったり、余分な骨ができてきたり、骨がすり減ってきたりします。それが、変形性膝関節症です。
治療・ケア
急な痛みや腫れには、「まず安静」を
膝痛になる要因として多いのは、普段運動していない人が急に⾧く歩いたり、山登りに行ったり、運動会で走ったりするなど、日ごろ行わない急な負担をかけた時です。その負担によって膝の中で炎症が起き、痛み、腫れ、水がたまります。そうした場合、まず大事なことは、それ以上の負担をかけないことです。
普段から運動を続けている人は、痛みがあっても無理に運動を続けがちです。負担をかけたあとの痛みは、すぐに収まる程度であれば続けても構いませんが、翌日まで痛みが持ち越すようなときは、3日から1週間程度、運動を中止して、膝や筋肉を休ませてください。そして、生活の中での必要最小限の動きにしていれば、炎症が治まって痛みが徐々に引いてきます。打撲などの場合に、しばらく安静にしておくと腫れが引いていくのと同じです。痛みが減ってきたら、痛む前の半分程度の運動から再開してください。
繰り返しますが、運動の時だけ痛くて運動を終えたらすぐ消えるような痛みなら気にしなくて構いませんが、翌日、翌々日まで痛みが続くようなら、思い切って休むことが大事です。
1週間たっても治らない時は、やはり整形外科で治療を受けるべきでしょう。さきほど申し上げた炎症の悪循環に陥ってしまいますと、3か月間も「水」がたまり続けることもあります。整形外科では注射で炎症を抑えたり、薬を処方してくれたりします。
整形外科での治療は、「保存療法」と「手術療法」
変形性膝関節症は重症度(進行度)に応じて治療することが効果的です。整形外科での治療は、主に保存療法と手術療法があります。
-
保存療法
- ①痛み止めの内服、外用薬(湿布、塗り薬)
- 一般的に、痛み止めは対症療法です。ただ、通常の痛み止めは炎症を鎮める薬なので、一過性の痛みは痛み止めで治ってしまうことがあります。
強い痛みを我慢するより、痛み止めを飲む方が身体によい場合もあります。 - ②注射(ヒアルロン酸)
- ヒアルロン酸の注射は、軟骨、関節液の重要な成分で、潤滑成分として軟骨表面の保護をします。
- ③注射(ステロイド)
- 炎症を強力に抑え込み、鎮痛効果も高い治療になります。
頻繁の使用は軟骨や靭帯を弱くしてしまいますが、2ヶ月から3ヶ月に1回なら安全です。
-
手術療法
多くの場合、膝の痛みは筋肉を鍛えたり、体重を落としたり、無理な負担を避けたりといった自分でできる予防・改善策を実行し、整形外科などで薬や注射などの治療で改善することが多いものです。しかし、軟骨の摩耗や骨の変化が強い場合や、O脚が強い場合、膝がまっすぐ伸びない場合などは、強い症状が慢性的に続き、なかなか良くならないことも少なくありません。こうした場合は、手術を選択することになります。
- ①人工関節手術
-
変形性膝関節症に対してもっとも多く行われている手術は、人工関節手術です。日本で年間8万件の人工膝関節手術が行われています。人工関節と言うと、膝の上下で骨を切って蝶番(ちょうつがい)を付けるようなイメージがあるかもしれませんが、傷んだ関節の表面を数ミリ程度切除して、金属のかぶせものをするのが手術の内容です(関節面全体を金属に置き換える全置換術と、傷みのある片側だけを置きかえる片側置換術があります)。手術後は、翌日から数日で立ったり、歩いたりするリハビリが始まり、2週から4週程度で退院し、比較的速やかに日常生活に戻ることができます。
人工関節は主にチタンやコバルトクロムといった金属でできています。レントゲンでは金属は白く見えます。手術後の写真の左側は、大腿骨を正面からみたもので、右側は横から写したものです。
痛んだ軟骨や骨を数ミリ削り、そこに人工関節をはめ込みます。すねの骨の部分は、上端を水平に切って、楕円形のトレイを置きます。こうすれば、関節表面が人工物になりますので、痛みがなくなります。ちょうど、歯医者さんで虫歯を削って金属やセラミックのかぶせ物をすると、痛みなく物が噛めるようになるのと同じです。ただ、手術後しばらく経過したあとでも筋肉の張りや痛みが残る場合もあります。
この手術は傷んだ軟骨や骨を替えることだけが目的ではなく、膝の痛みを軽くし、膝の機能を改善することが目的です。つまり、痛みがなくよく歩ける膝にすることです。 - ②骨切り術
- 膝の内側に病変部があり、歩行時等には、内側に荷重がかかり強い痛みが起こり、下肢がO脚に変形してしまう(内反変形)疾患に対して行われる手術です。
内反変形を矯正して、内側にかかる荷重を、正常な軟骨や半月板が残っている外側の関節に分散させる手術です。
手術後は、自分自身の関節が温存されるため、可動域が改善され、スポーツや農作業等の重労働にも耐えられます。時間の経過とともに、筋力が増強し関節機能が改善することがこの手術の特徴でもあります。
膝の変形が少ない方、可動域が良い方、重労働を行う方、スポーツをしたい方等に適しています。
また強力な内固定材料の開発、人工骨の使用、リハビリの工夫等により、高齢者の方で骨が弱い方でも安全に行われ、年齢に制限なく行える手術であります。
膝の下にあるすねの骨(脛骨)の一部切除や、切り込みを入れて変形を矯正します。矯正後は金属製のプレートで固定し、骨切り部には必要に応じて骨移植(自家骨や人工骨)をします。
改善・予防には、「筋力獲得」
膝痛を放置しておくと、炎症が続いて軟骨や骨が徐々に傷んできます。O脚が進行するところまでいってしまうと、軟骨への負担がさらに強まるので、なかなか元へ戻せません。まずは改善・予防として痛み始めの段階で修正することが大切です。
そこで、効果的なのは筋力をつけることです。筋肉を鍛えると、膝の痛みが緩和します。これは筋肉がしっかりすることで、関節が安定した状態で動き軟骨のすり減りを抑えられるからです。軟骨の磨耗を防ぐには、筋力を鍛えることが効果的です。膝関節に関する筋力の動きは主に3つの役割があります。
- ①関節を動かす
- ②関節を安定化させる
- 骨だけではバラバラに。靭帯でつながっていてもグラグラします。筋肉にしっかりおおわれることによって安定化します。
- ③関節面への衝撃を緩和する
- 調整しながら“そっと”荷重をかけることがポイントです。足がつくタイミングに合わせて、わずかに膝を曲げることにより緩衝します。筋力の増強により、この緩衝作用が働きやすくなり、関節面の負担も軽減することにつながります。
また、肥満は膝痛の重要な発症要因、進行要因になるので、太り過ぎには注意が必要です。
まず、体重の5%ぐらいを落としてください。50キロの人なら2.5キロでいいわけですから、無理な目標ではありません。無理せず、毎日運動を続けるよう心掛けましょう。
まとめ~筋力を鍛えること、しっかり安静期間をとること
変形性膝関節症の本態は、決して軟骨の摩耗だけではなく、それに伴う関節の中の炎症です。
この病気は、英語ではosteoarthritisと言い、さいごの「-itis」は炎症を意味します。直訳すると「骨関節炎」です。したがって、軟骨の摩耗をふせぎ、炎症が続かないように注意することが重要なことから、筋力を鍛えること、痛みや腫れがでた場合はしっかり安静期間をとることが、重要となります。
また、強い痛みが続いたり、まっすぐ伸びなくなったり、O脚変形が強くなると保存療法だけでは十分に歩くことができず、そのままでは筋肉や骨が弱くなってしまいます。そうした場合は、人工関節手術を積極的に検討することも大切です。
重要なことは、いつまでも自分の足でよく歩けること。変形性膝関節症の保存療法も手術療法も、このことが目的です。膝のことをしっかり知って、あなたの膝と日々の生活にお役立てください。
関節リウマチ
症例概要(症状・リスク)
両側の手首・足首や手指・足趾の関節が腫れて痛み、朝起きた時にこわばりを感じるのが典型的な発症症状です。対称性に起こる手・足の関節炎がこの病気の特徴ですが、膝・肘・股関節などの大きな関節にも広がり、進行すると痛みや変形のために日常生活に支障をきたすようになります。従って、発症早期に診断し、適切な治療を開始することが大切です。
どの年代でも起こりますが、特に20歳代から50歳代に多く発症します。病変が手や足にとどまる軽症型から全身の関節に広がる重症型まで症状は多彩です。自己免疫疾患に分類される病気ですから、関節炎の他に微熱、全身倦怠感、貧血などの全身症状を伴うことがあります。
治療・ケア
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保存療法
関節リウマチ治療の主体は内服薬による治療法です。近年内服薬による関節リウマチの治療成績は飛躍的に高まり、多くの患者さんが満足のいく効果を実感されています。疾患の進行を抑制する抗リウマチ薬、免疫抑制薬、生物学的製剤、炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイドが用いられています。この病気は進行性に関節を破壊して重篤な機能障害を引き起こし、生命予後にも影響を及ぼすことが明らかになっています。従って、診断がついたら早期から積極的な治療を行うという考えが主流になっています。適度な運動やリハビリテーションにより筋力を獲得し、関節可動域を維持することも重要です。また温熱療法などによって関節痛を緩和する方法や、関節を保護して動きを改善する装具療法があります。
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手術療法
腱の断裂や脊髄の圧迫は、手術による治療が適用されます。関節破壊による膝・股・肩・指関節の変形を伴い機能的に障害が生じている場合には、人工関節置換術が積極的に行われ、良好な成績が得られています。
大腿骨内顆(膝関節内顆)骨壊死
症例概要(症状・リスク)
膝関節の内側に突発的な痛みが生じます。
大腿骨への血流が悪くなり、大腿骨の内側の荷重部(内顆)にある骨組織の一部が壊死することによって発症する病気です。
夜間に痛みが強くなるのが特徴で、中年期以降の女性に多くみられます。徐々に運動や歩行などの膝に負担のかかる動作を行うと痛みが強くなり、次第にその痛みは強くなりますが、徐々に軽減することもあります。関節面に大きな陥没ができることもあり、この場合は手術が必要になります。
治療・ケア
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保存療法
ダイエットに心掛け、できるだけ杖を持って歩きます。段差、階段などで踏み外したりしないように気をつけます。手術を行うタイミングを逃さないことが大切です。
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手術療法
骨壊死による関節面の陥没が深い場合や広い場合には、荷重時の痛みが強く歩行が困難になることがあります。このような場合は手術が必要となり、膝のすぐ下で骨を切ってX脚に膝の形を変える「高位脛骨外反骨切り術」や、膝関節の内側だけの関節面を人工物に換える「人工膝関節片側置換術」、膝関節の内側外側両方の関節面を人工物に換える「人工膝関節全置換術」をします。どの手術が適切かは、膝や全身の状況をみて決めることになります。
偽痛風
症例概要(症状・リスク)
痛風は、関節内に尿酸の結晶ができることにより関節炎が生じる病気ですが、偽痛風は、石灰分の結晶が関節内に沈着することによる関節炎で、高齢者に多く発症します。
関節に強い痛みがおこり、よく発熱を伴います。大半が膝関節で発生し、それ以外では肩関節、足関節などの大きな関節で発生しやすくなっています。高齢者の原因が分からない発熱が、実は偽痛風によるものだったというケースが少なくありません。
急性の偽痛風発作は数日から1週間程度でおさまります。急性痛風発作のように突然出現して自然に軽快しますが、痛風より痛みは軽度です。
治療・ケア
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保存療法
まずは安静と膝関節の冷却を行ないます。消炎鎮痛剤の内服がきわめて有効で1日から数日で炎症が治まり、確実に早期に炎症を鎮めたい場合、内服ができない場合などは、膝関節腔内注射(ステロイド剤)を行ないます。
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手術療法
通常手術は行わず、保存的な治療で十分回復します。
「腰」の痛み対策~サポーターのすすめ | MEDIAIDクリニック |
監修医:夏山元伸 監修医:夏山元伸 腰が痛い時は安静が一番ですが、日常生活を休むことはなかなか難しい事です。そこで腰をサポートし、周辺の筋肉などを安静にしている状態にするのが腰サポーター(腰部固定帯)です。運動時には手軽に痛みを和らげるとともに、痛みへの不安を解消してくれます。 腹部に適度な圧迫力を与えることで、腹腔圧を上昇させ腰椎への負担を軽減します。 背中側を固定することで反りすぎを抑え、腰への負担を軽くします。 腰を温めて筋の緊張を解きほぐし、リラックスさせます。 製品中央にある背当て部の中心が、背骨の中心にくるように当ててください。 このとき、サポーター本体側面の伸縮部が、十分に伸びるように本体両端部を引っ張りながら、体の正面で面ファスナーをとめます。装着位置は装着図のへその位置を基準にしてください。 補強ベルトの端を両手で持ち、左右同時に適度に引っ張って、前合わせ部に面ファスナーをとめます。 腰サポーターは正しくつけてこそ、その効果を発揮します。「腰」の痛み対策
~サポーターのすすめ
島脳神経外科整形外科医院副院⾧、内視鏡、腰痛センター⾧サポーターのすすめ
なかなか休めないあなたへ。腰サポーターが不安を解消。
①腹腔圧上昇効果
②姿勢制御効果
③保温機能
サポーターの正しいつけ方
(※MEDIAID しっかりガード腰スタンダードの場合)
①腰部にサポーターを当てます。
②サポーター本体で腰部を覆い、体の正面で面ファスナーをとめます。
③腰補強ベルトをサポーター本体にとめます。
ポイントを押さえて正しく装着しましょう。
「腰」の痛み対策~エクササイズのすすめ | MEDIAIDクリニック |
監修医:夏山元伸 監修医:夏山元伸 太っている人は減量して、姿勢や歩き方にも注意して、背骨のまわりの筋肉を鍛えないといけません。 この運動は床に横になって安静にした際に、背中と床の間に手が入るような方に適しています。 筋力をつけるために、無理せず徐々に、なるべく毎日、運動を続けるよう心掛けましょう。 続いてストレッチをご紹介します。ストレッチする際は息を止めずに、ゆっくり動かすようにします。勢いをつけないように注意しましょう。 ※長時間立っていたり座っていたりする仕事の方は、一定時間経過したら図のようなストレッチをしましょう。 筋力をつけるために、無理せず徐々に、なるべく毎日、運動を続けるよう心掛けましょう。「腰」の痛み対策
~エクササイズのすすめ
島脳神経外科整形外科医院副院⾧、内視鏡、腰痛センター⾧腰痛対策エクササイズ
腰痛対策エクササイズのすすめ
治すためには医師任せにするのではなく、患者さん自身の「良くなろう」という意識と努力も大事です。
毎日の腰痛対策エクササイズにより筋力を獲得し、腰をケアすれば、腰痛の軽減にも予防にも効果的です。エクササイズ①腹筋強化運動
~腹筋を強くする運動(10セット)~
エクササイズ②骨盤傾斜運動
~腰の反りを減らす運動(10セット)~
おしりをギュッとつぼめながら浮かせて5秒間止めます。エクササイズ③下部背筋伸張運動
~腰の筋肉を伸ばす運動(10セット)~
また関節をサポートする、サポーター等を併用することも効果的です。エクササイズ④腰のストレッチ
エクササイズ⑤背筋のストレッチ
エクササイズ⑥おなかのストレッチ
エクササイズ⑦太もものストレッチ
前側の筋肉のストレッチ
エクササイズ⑧背骨の前屈・後屈ストレッチ
また関節をサポートする、サポーター等を併用することも効果的です。
「腰」の痛み診療室 | MEDIAIDクリニック |
「腰」の痛み診療室
監修医:夏山 元伸
(なつやまもとのぶ)
島脳神経外科整形外科医院副院⾧、内視鏡、腰痛センター⾧
1954年生まれ。1979年東京大学医学部卒業、同医学部付属病院整形外科に入局。1990年関東労災病院スポーツ整形外科、2001年関東労災病院整形外科部⾧。2005年第5回アジア太平洋最小侵襲脊椎手術学会会長。2013年より島脳神経外科整形外科副院⾧、内視鏡、腰痛センター⾧。
腰の痛みを感じたら
はじめに
腰痛は、約1300万人※の方が悩まされている、日本でもっとも多い疾患です。
最近では若い女性でも、腰痛で病院を訪れるほどです。
一口に腰痛と言っても様々で、「安静にしていれば痛まない」、「動いている方が痛まない」、「いつもズキズキ痛む」などがあります。
また原因も
- ①整形外科的要因:骨の変形、先天性、筋肉の疲労、運動不足からくる筋肉の衰え
- ②内臓疾患
- ③精神的な要因
など限りなくあります。
専門医の治療が必要な場合もありますが、骨や筋肉などの整形外科的要因から生ずる腰痛は、生活の中での正しい腰痛の対策により予防でき、あるいは痛み始めた場合でも症状を軽くすることができます。
ここでは中高年に多い腰の痛みとその構造、次に症例のメカニズムと治療、ケアについて解説いたします。
腰を痛めやすい人には共通の傾向があります
腰の痛みの原因は様々ですが、なりやすい人には共通の傾向があります。
立ったままその場での作業は、筋肉疲労と不良姿勢(腰の反り返り)によって椎間板(ついかんばん)にかなりの負担がかかるために腰痛になりやすく、またずっと座っている姿勢も、立っている状態より椎間板にかかる負担は大きく、不良な姿勢から腰痛になりやすいといえます。
- ・同じ姿勢を長時間続けている
- ・重労働や運動のしすぎで筋肉疲労がある
- ・運動不足で足腰の筋力が低下している
- ・きつい下着をつけて血行が悪くなっている
- ・体がかたく、筋肉が緊張しやすい
- ・神経質な人は痛みを感じやすい
また軽い腰痛、原因がはっきりしない腰痛などをまとめて、いわゆる「腰痛症」といいます。中腰で重いものを持ったりしたときなど、急に腰が痛くなり動けなくなった状態を一般的に「ぎっくり腰」といいます。
体重や筋肉の圧迫による関節への負担は、サポーターを着用することで軽減が期待できます。
腰は負担のかかりやすい部位です
身体を曲げる、反る、ねじるといった動きを担う腰は、5つの骨が積み重なった腰椎(ようつい)と骨盤で構成されています。腰の上半身を支えると同時に、下半身から伝わる衝撃を受け止める役割を持ち、負担のかかりやすい部位です。
正常な脊柱(せきちゅう)はS型にカーブしています。(図1)人間が起立歩行するようになった過程でつくられたのが脊柱のS字カーブ。足から頭への衝撃を吸収し、上半身の柔軟な動きを可能にします。
S字型の脊椎が全身の姿勢バランスをとることで、まわりの筋肉や靭帯(じんたい)の負担が軽減されるのです。
脊柱は、椎骨(ついこつ)と椎間板(ついかんばん)でつくられています。
脊柱は頚椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)、仙骨(せんこつ)、尾骨(びこつ)からなり、頚椎から腰椎までのひとつずつの骨を椎骨といいます。椎骨と椎骨の間には『椎間板』があり、クッションの役割をはたしています。そして脊柱は筋肉と靭帯のワイヤーロープに支えられています。そのままでは安定せず、靭帯・腹筋・背筋などがワイヤーロープのように脊柱を支え、必要な時にはしなやかな動きに対応しています。そのため、筋力が弱くなると脊柱を十分に支えられず、S字カーブがくずれて腰痛の原因となるのです。その他、痛みが発生する箇所、具合によって中高年の方に起こりやすい症例と、そのメカニズムについて紹介していきます。
体重や筋肉の圧迫による関節への負担は、サポーターを着用することで軽減が期待できます。
腰痛 代表的な症例とケア
椎間板ヘルニア
症例概要(症状・リスク)
腰や臀部(でんぶ)が痛み、下肢にしびれや痛みが放散したり、足に力が入りにくくなります。
背骨が横に曲がり、動きにくくなり、重いものをもったりすると痛みがつよくなることがあります。
椎間板は線維輪(せんいりん)と髄核(ずいかく)でできていて、背骨をつなぎ、クッションの役目をしています。その一部が出てきて神経を圧迫し症状が出ます。加齢などにより椎間板が変性し断裂して起こりますが、悪い姿勢での動作や作業、喫煙などでヘルニアが起こりやすくなることが知られています。
治療・ケア
痛みが強い時期には、安静を心がけ、コルセットや腰サポーターをつけたりします。また、消炎鎮痛剤の内服や坐薬、神経ブロックを行い、痛みをやわらげます。腰を温めるのも効果的です。痛みが軽くなれば牽引(けんいん)や運動療法を行うこともあります。
前屈みになると椎間板は余計に背中側へ突出しますが、背中を反らすと椎間板にはお腹側へ戻る力が働きますので、背中を反らすストレッチは有効です。
これらの方法でよくならない場合や下肢の脱力、排尿障害があるときには手術をお勧めすることがあります。最近では内視鏡を使った手術も広く行われるようになってきました。
骨粗鬆症
症例概要(症状・リスク)
骨粗鬆症は、痛みが発生しないものが大半です。しかし、転ぶなどのちょっとしたはずみで骨折しやすくなります。骨折が生じやすい部位は、背骨、手首の骨などです。
骨折が生じると、その部分が痛くなり動けなくなります。また、背中や腰が痛くなった後に、丸くなったり身⾧が縮んだりします。
骨の絶対量が減少した状態であり、老人性骨粗鬆症が最も多く、閉経後の女性に多く見られます。
高齢者が軽く尻もちをついただけで強い腰痛を訴えた場合は、骨粗鬆症を起因とした脊椎の圧迫骨折が疑われ、股関節を痛がる場合は、大腿骨の頸部骨折(けいぶこっせつ)が疑われます。
治療・ケア
内服薬や注射(副甲状腺ホルモン)などによる治療を行います。骨折した場合は、それに応じた治療が必要です。閉経後の女性には、整形外科医の定期的な検診をお勧めします。
筋・筋膜性腰痛
症例概要(症状・リスク)
いわゆる腰痛症の中で、筋・筋膜性腰痛症がかなりの割合を占めています。筋膜性腰痛症の症状は動作時の腰痛を主体とし、安静をとると軽減します。腰背筋膜は腰部全体を覆っているので、痛みの部位も骨盤の両脇から、仙骨、背部にいたるまで、さまざまです。
筋・筋膜性腰痛症は筋疲労や姿勢異常(姿勢性腰痛症、静力学的腰痛症)が原因となります。一方、椎間板変性や変形性脊椎症、腰椎分離・すべり症、骨粗しょう症などの原疾患が基盤にあり、二次的に筋・筋膜性腰痛症を起こしている例も少なくありません。
治療・ケア
筋・筋膜性腰痛症は除外診断的な要素が多く、腰椎椎間板ヘルニアや分離症を否定しておく必要があります。 足のしびれや、筋力低下、坐骨神経痛があれば、MRIなどで他疾患を疑う必要があります。筋・筋膜性腰痛症であれば治療はリハビリや薬物療法が主体となります。再発傾向の強い方は原因の精査と治療が必要です。
腰部脊柱管狭窄症
症例概要(症状・リスク)
この病気では⾧い距離を続けて歩くことができません。
もっとも特徴的な症状は、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行(かんけつせいはこう)です。
腰部脊柱管狭窄症では腰痛はあまり強くなく、安静にしている時にはほとんど症状はありませんが、背筋を伸ばして立っていたり歩いたりすると、太ももや膝から下にしびれや痛みが出て歩きづらくなります。しかし、すこし前屈みになったり、腰かけたりするとしびれや痛みは軽減されます。加齢や背骨の病気による影響で変形した椎間板と、背骨や椎間関節から突出した骨などにより、神経が圧迫されます。
脊柱管は背骨、椎間板などに囲まれた脊髄の神経が通るトンネルです。年をとると背骨が変形したり、椎間板が膨らんだり、黄色靱帯が厚くなって神経の通る脊柱管が狭くなり(狭窄)、それによって神経が圧迫され、血流が低下し脊柱管狭窄症が発症します。
椎間板ヘルニアに比べ中高年に発症することが多いようです。
治療・ケア
日常生活上の注意としては、姿勢を正しく保つ事が必要です。神経の圧迫は腰をまっすぐに伸ばして立つと強くなり、前屈みになるとやわらぎますので、歩く時には杖をついたりして腰を少し屈めるようにすると楽に歩けます。また、自転車でのトレーニングも痛みが起こりにくいので、よい運動になります。
治療としてはリハビリテーション、コルセット、神経ブロックや脊髄の神経の血行を良くする薬などがあります。これらで症状が改善することもあります。
しかし、歩行障害が進行し、日常生活に支障が出てくる場合には手術を行うこともあります。また両足に症状が出ている場合には、改善することが少ないので手術を行う場合が多いわけです。最近は内視鏡を使った手術も行われています。
腰椎分離・すべり症
症例概要(症状・リスク)
腰痛の場合と、お尻や太ももの痛みを出す場合があります。痛みは腰椎を後ろにそらせた時に強くなります。多くは体が柔らかい若い時期に、ジャンプや腰の回旋を行うことで腰椎の後方部分に亀裂が入って起こります。
また「ケガ」のように1回で起こるわけではなく、スポーツの練習などで繰り返し、疲労の蓄積などから起こります。分離症が原因となり、その後腰椎の位置がずれ、分離すべり症に進行していく場合があります。
治療・ケア
分離症があっても強い痛みや日常生活の障害なく生活できる場合が大部分です。腹筋・背筋を強化して、一般的な腰痛予防を心がけましょう。
日常生活や仕事に支障が生じれば、神経の圧迫を除去する手術が行われます。
変形性腰椎症
症例概要(症状・リスク)
椎間板が傷み、厚みが減り、椎間板に接した椎体が骨硬化し、前後に骨棘(こつきょく)ができます。後方にある左右の椎間関節も傷んできます。
変形性腰椎症が高じて、脊柱管が狭くなった状態が、腰部脊柱管狭窄症です。腰痛だけでなく、脚のしびれや痛みがでてきたら、この腰部脊柱管狭窄症を考えます。
また、ただ椎間板だけが傷んでいてそこから痛みがでる場合は腰椎椎間板症、傷んだ椎間板が何かのきっかけで膨らんだり飛び出したりして神経を圧迫して脚の痛みがでる状態を椎間板ヘルニアと呼んでいます。
治療・ケア
内服薬は消炎鎮痛剤や筋弛緩剤などを含んだ外用薬、温熱療法などの理学療法などが中心です。また、痛みが強い部位への注射や神経ブロックなどを行うこともあります。痛みは安静で治ることも多く、手術を必要とすることはありません。
「ヒザ」の痛み対策~エクササイズのすすめ | MEDIAIDクリニック |
監修医:石橋英明 監修医:石橋英明 筋力を獲得することが軟骨の磨耗対策に効果的です。 おすすめしているのはスクワットです。大腿四頭筋だけではなく、下肢全体の筋力の効果的なエクササイズになります。 スクワットでも右記のポイントに気をつけていただくと痛みが起こりにくく、膝周囲の筋力強化につながります。 筋力が弱く前述のスクワットが行えない場合や、膝の痛みがあり負担の少ないエクササイズを行いたい場合に行うと良いと思います。 ※筋肉がついて、楽にできるようになったら、足首に0.5Kg~1.0Kgのおもりをつけて行ってみましょう。 ※筋肉がついて、楽にできるようになったら、足首に0.5Kg~1.0Kgのおもりをつけて行ってみましょう。 筋力をつけるために、無理せず徐々に、なるべく毎日、運動を続けるよう心掛けましょう。「ヒザ」の痛み対策
~エクササイズのすすめ
医療法人社団愛友会 伊奈病院 副院長/整形外科部長膝痛対策エクササイズ
膝痛対策エクササイズのすすめ
特に、太ももの筋肉(大腿四頭筋:だいたいしとうきん)の強化がポイント。
エクササイズを紹介していきます。エクササイズ①スクワット
(しゃがむ際の手の位置は、図のように前に出しても、体の横に下ろしてもどちらでも構いません。)エクササイズ②足上げ運動
エクササイズ③椅子を使った足上げ運動
しっかり膝を伸ばしたら、足首をグッと反らせます。
また関節をサポートする、サポーター等を併用することも効果的です。
「ヒザ」の痛み対策 ~サポーターのすすめ | MEDIAIDクリニック |
監修医:石橋英明 監修医:石橋英明 O脚変形の強い方や膝の曲げ伸ばしに不自由を感じる方には、サポーターの着用をお勧めします。サポーターを着用することにより、不安定な関節を“ある程度”安定させ、関節面への負担を軽減することができます。筋力の獲得の過程で不安定な関節を安定させ、軟骨への負担を抑え、痛みのコントロールをしながら上手に活用してください。
サポーターには、目的に応じていくつかのタイプがあります。御自身の症状に合う製品を使用することが重要です。 サポーター本体で膝を圧迫することで関節を安定させます。 ステー(支柱)によって関節のグラつきを抑え、膝のスムーズな動きを助けます。 膝を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉の緊張をほぐします。 より専門的な相談やお悩みについては整形外科医に相談すると適切な助言が得られると思います。 膝をまっすぐに伸ばして、膝穴の位置と膝のお皿が合うように、膝裏にサポーターを当てます。 上下それぞれの面ファスナーを止め、適度な圧迫になるまでそれぞれの面ファスナーをとめ直します。 膝の前だけでなく、後ろのたるみもしっかり伸ばしてください。 膝サポーターは正しくつけてこそ、その機能を発揮します。「ヒザ」の痛み対策
~サポーターのすすめ
医療法人社団愛友会 伊奈病院 副院長/整形外科部長サポーターのすすめ
膝の曲げ伸ばしに不自由を感じたら、膝サポーターをお勧めします。
①圧迫機能
②支持・安定機能
③保温機能
サポーターの正しいつけ方
(※MEDIAID しっかりガード ヒザの場合)
①サポーターを膝裏に当てます。
②適度な圧迫になるように上下の面ファスナーをとめます。
③膝をまっすぐに伸ばして、サポーターを上下に引っ張り、たるみを直します。
ポイントを押さえて正しく装着しましょう。