MEDIAIDクリニック

「ヒザ」の痛み診療室 | MEDIAIDクリニック |

監修医:石橋 英明
(いしばしひであき)

医療法人社団愛友会 
伊奈病院副院⾧
整形外科部⾧

1988年東京大学医学部卒業。東大病院整形外科、三井記念病院整形外科勤務などを経て1992年に東京大学大学院入学、1996年同修了、学位(医学博士)取得。以後、米国ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)に留学、1999年より東京都老人医療センター(現・健康⾧寿医療センター)整形外科、2002年同医⾧、2004年より伊奈病院に勤務。人工関節手術、骨粗鬆症、関節リウマチなどを専門とする整形外科医。NPO法人高齢者運動器疾患研究所では、代表理事としてロコモや変形性関節症などに関する普及・啓発に努めている。
日本整形外科学会ロコモチャレンジ!推進協議会委員、日本整形外科学会専門医、日本骨粗鬆症学会評議員、骨粗鬆症財団理事。

ヒザの痛みを感じたら

はじめに

膝の痛みは、正しい知識を身につけることで予防や症状を軽くすることが可能です。
1950年に約410万人だった65歳以上の人口は、2020年には3600万人を超え、80歳以上の人口は1160万人となりました。
高齢者の数も増えていますが、寿命も延びています。
それぞれの年齢の人が、あと何年くらい寿命が残っているかを示す平均余命データからは、今の中高年女性は平均でも概ね90歳以上まで生きることがわかります。
男性も⾧生きすればするほど女性の寿命に近づき、男女とも90歳以上まで生きるのが当たり前という時代になりつつあります。
そして、要介護者も増えており、中でも足腰の問題を原因とする要支援・要介護者が増えています。
2019年の国民生活基礎調査では、要支援・要介護の原因は、認知症(17.6%)、脳卒中(16.1%)、高齢による衰弱(12.8%)、転倒・骨折(12.5%)、関節疾患(10.8%)で、関節疾患と転倒・骨折、つまり運動器の問題によるものを合わせると脳卒中、認知症を超えます。
年を重ねれば誰でも膝が痛む可能性がある訳ですが、膝の痛みが起こる仕組みについて正しい知識を身につけることで、早期に手を打って予防することや、痛みがある場合でも症状を軽くする事が可能になります。
ここでは中高年に多い膝関節の痛みとその構造、次に症例のメカニズムと治療、ケアについて解説いたします。
また、膝の痛みとして代表的な『変形性膝関節症』のメカニズム、治療、ケアについて分かりやすく説明していきます。

加齢に伴うヒザの痛みは、宿命!?

中高年の方で、膝痛に悩む人が多いのは、加齢とともに膝の軟骨が弱く、膝を支える周囲の筋肉が弱くなるためです。人間、歩いている限りは膝の軟骨に体重負荷がかかりますし、筋肉の収縮による圧迫力も受けます。40歳を過ぎたあたりからは、それまでと同じような仕事、生活、運動でも痛みなどの症状が現れてくる場合が増えてきます。つまり膝の痛みは、加齢による身体の変化と日常生活での負担という避けられない原因によって生じるということになり、ある程度、宿命と言えます。
さらに、女性の場合は閉経による影響もあります。

膝は負担がかかりやすい部位

膝は人間の体のなかでも、最も複雑で不安定な構造を持っています。
動きの中では支点として機能するため、負担がかかりやすく損傷が起こりがちな部位です。

体重や筋肉の圧迫による関節への負担は、サポーターを着用することで軽減が期待できます。

膝痛 代表的な症例とケア

変形性膝関節症

症例概要(症状・リスク)

軟骨の摩耗(すり減り)による炎症が痛みの原因です。進行すると、膝の動きは制限され曲げ伸ばしがしにくくなります。また軟骨の磨耗や関節変形が進むとO脚変形が生じます。

  • <初期>立ちあがり、歩きはじめ、⾧く歩くと膝が痛む(休めば痛みがとれる)
  • <中期>歩くと膝が痛み、正座、階段の昇降が困難(動作が不自由)
  • <末期>変形が目立ち、膝の曲げ伸ばしがしにくくなり、歩行も困難(日常生活が不自由)
治療・ケア

病院で行われる治療は、その他の症例と同様に<保存療法><手術療法>があります。治療法の選択は問診・診療・検査の結果をもとに重症度(進行度)に応じて行われます。最も大事なケアは、早い段階で筋力をしっかりさせ、安定した動きで軟骨の磨耗を防ぐことです。ただし痛みや腫れが見られるような急性期においては患部に負担がかからないように安静にしましょう。

変形性膝関節症のメカニズム
痛みの原因は「炎症」

軟骨に負担がかかって磨耗すると、軟骨の摩耗片(削りかす)の分解物によって関節の中で炎症が起きることが分かっています。変形性膝関節症のメカニズムは図のような具合に進行します。
大腿骨とすねの骨(けい骨)は、関節包(かんせつほう)という包みに覆われています。体重の負荷などによって軟骨がすり減ると、軟骨の細かな「削りかす」によって、関節包の内側にある滑膜(かつまく) という膜に炎症が起きます。
炎症はもともと組織を修復するための反応で、膝の場合は削れた部分の軟骨を修復するために起きるのですが、炎症の過程で、関節周囲が腫れたり、痛んだりします。また、関節は関節包に包まれた袋になっています。この袋の中に常に数ccの関節液があり、軟骨に栄養や酸素を与えています。そして関節の中で炎症がおきると、この関節液が増えます。打撲したところが腫れるのと同じ理屈です。実は、この増えた関節液がいわゆる「水」というわけです。つまり「水」は炎症の結果です。また、膝の痛みも炎症の結果といえます。軟骨や骨には神経が通ってないので、軟骨が削れたから痛いのではなく、炎症が起きることで痛みが出てくるのです。
炎症が起きた状態で軟骨に負担をかけると、さらに軟骨が削れて、それがまた炎症の元になるという悪循環に陥ります。
若い人の軟骨は白く光沢があり、弾力もあります。それが加齢とともに、軟骨は黄色くなって、徐々に弾力がなくなってきます。そうなると軟骨が摩耗しやすくなります。軟骨が摩耗し、炎症がずっと続くと、レントゲンでも分かるくらいに軟骨が減ってきます。また、骨にも影響が出て、骨が硬くなったり、余分な骨ができてきたり、骨がすり減ってきたりします。それが、変形性膝関節症です。

治療・ケア
急な痛みや腫れには、「まず安静」を

膝痛になる要因として多いのは、普段運動していない人が急に⾧く歩いたり、山登りに行ったり、運動会で走ったりするなど、日ごろ行わない急な負担をかけた時です。その負担によって膝の中で炎症が起き、痛み、腫れ、水がたまります。そうした場合、まず大事なことは、それ以上の負担をかけないことです。
普段から運動を続けている人は、痛みがあっても無理に運動を続けがちです。負担をかけたあとの痛みは、すぐに収まる程度であれば続けても構いませんが、翌日まで痛みが持ち越すようなときは、3日から1週間程度、運動を中止して、膝や筋肉を休ませてください。そして、生活の中での必要最小限の動きにしていれば、炎症が治まって痛みが徐々に引いてきます。打撲などの場合に、しばらく安静にしておくと腫れが引いていくのと同じです。痛みが減ってきたら、痛む前の半分程度の運動から再開してください。
繰り返しますが、運動の時だけ痛くて運動を終えたらすぐ消えるような痛みなら気にしなくて構いませんが、翌日、翌々日まで痛みが続くようなら、思い切って休むことが大事です。
1週間たっても治らない時は、やはり整形外科で治療を受けるべきでしょう。さきほど申し上げた炎症の悪循環に陥ってしまいますと、3か月間も「水」がたまり続けることもあります。整形外科では注射で炎症を抑えたり、薬を処方してくれたりします。

整形外科での治療は、「保存療法」と「手術療法」

変形性膝関節症は重症度(進行度)に応じて治療することが効果的です。整形外科での治療は、主に保存療法と手術療法があります。

  • 保存療法
    ①痛み止めの内服、外用薬(湿布、塗り薬)
    一般的に、痛み止めは対症療法です。ただ、通常の痛み止めは炎症を鎮める薬なので、一過性の痛みは痛み止めで治ってしまうことがあります。
    強い痛みを我慢するより、痛み止めを飲む方が身体によい場合もあります。
    ②注射(ヒアルロン酸)
    ヒアルロン酸の注射は、軟骨、関節液の重要な成分で、潤滑成分として軟骨表面の保護をします。
    ③注射(ステロイド)
    炎症を強力に抑え込み、鎮痛効果も高い治療になります。
    頻繁の使用は軟骨や靭帯を弱くしてしまいますが、2ヶ月から3ヶ月に1回なら安全です。
  • 手術療法

    多くの場合、膝の痛みは筋肉を鍛えたり、体重を落としたり、無理な負担を避けたりといった自分でできる予防・改善策を実行し、整形外科などで薬や注射などの治療で改善することが多いものです。しかし、軟骨の摩耗や骨の変化が強い場合や、O脚が強い場合、膝がまっすぐ伸びない場合などは、強い症状が慢性的に続き、なかなか良くならないことも少なくありません。こうした場合は、手術を選択することになります。

    ①人工関節手術

    変形性膝関節症に対してもっとも多く行われている手術は、人工関節手術です。日本で年間8万件の人工膝関節手術が行われています。人工関節と言うと、膝の上下で骨を切って蝶番(ちょうつがい)を付けるようなイメージがあるかもしれませんが、傷んだ関節の表面を数ミリ程度切除して、金属のかぶせものをするのが手術の内容です(関節面全体を金属に置き換える全置換術と、傷みのある片側だけを置きかえる片側置換術があります)。手術後は、翌日から数日で立ったり、歩いたりするリハビリが始まり、2週から4週程度で退院し、比較的速やかに日常生活に戻ることができます。
    人工関節は主にチタンやコバルトクロムといった金属でできています。レントゲンでは金属は白く見えます。手術後の写真の左側は、大腿骨を正面からみたもので、右側は横から写したものです。
    痛んだ軟骨や骨を数ミリ削り、そこに人工関節をはめ込みます。すねの骨の部分は、上端を水平に切って、楕円形のトレイを置きます。こうすれば、関節表面が人工物になりますので、痛みがなくなります。ちょうど、歯医者さんで虫歯を削って金属やセラミックのかぶせ物をすると、痛みなく物が噛めるようになるのと同じです。ただ、手術後しばらく経過したあとでも筋肉の張りや痛みが残る場合もあります。
    この手術は傷んだ軟骨や骨を替えることだけが目的ではなく、膝の痛みを軽くし、膝の機能を改善することが目的です。つまり、痛みがなくよく歩ける膝にすることです。

    ②骨切り術
    膝の内側に病変部があり、歩行時等には、内側に荷重がかかり強い痛みが起こり、下肢がO脚に変形してしまう(内反変形)疾患に対して行われる手術です。
    内反変形を矯正して、内側にかかる荷重を、正常な軟骨や半月板が残っている外側の関節に分散させる手術です。
    手術後は、自分自身の関節が温存されるため、可動域が改善され、スポーツや農作業等の重労働にも耐えられます。時間の経過とともに、筋力が増強し関節機能が改善することがこの手術の特徴でもあります。
    膝の変形が少ない方、可動域が良い方、重労働を行う方、スポーツをしたい方等に適しています。
    また強力な内固定材料の開発、人工骨の使用、リハビリの工夫等により、高齢者の方で骨が弱い方でも安全に行われ、年齢に制限なく行える手術であります。
    膝の下にあるすねの骨(脛骨)の一部切除や、切り込みを入れて変形を矯正します。矯正後は金属製のプレートで固定し、骨切り部には必要に応じて骨移植(自家骨や人工骨)をします。
改善・予防には、「筋力獲得」

膝痛を放置しておくと、炎症が続いて軟骨や骨が徐々に傷んできます。O脚が進行するところまでいってしまうと、軟骨への負担がさらに強まるので、なかなか元へ戻せません。まずは改善・予防として痛み始めの段階で修正することが大切です。
そこで、効果的なのは筋力をつけることです。筋肉を鍛えると、膝の痛みが緩和します。これは筋肉がしっかりすることで、関節が安定した状態で動き軟骨のすり減りを抑えられるからです。軟骨の磨耗を防ぐには、筋力を鍛えることが効果的です。膝関節に関する筋力の動きは主に3つの役割があります。

①関節を動かす
②関節を安定化させる
骨だけではバラバラに。靭帯でつながっていてもグラグラします。筋肉にしっかりおおわれることによって安定化します。
③関節面への衝撃を緩和する
調整しながら“そっと”荷重をかけることがポイントです。足がつくタイミングに合わせて、わずかに膝を曲げることにより緩衝します。筋力の増強により、この緩衝作用が働きやすくなり、関節面の負担も軽減することにつながります。
また、肥満は膝痛の重要な発症要因、進行要因になるので、太り過ぎには注意が必要です。
まず、体重の5%ぐらいを落としてください。50キロの人なら2.5キロでいいわけですから、無理な目標ではありません。無理せず、毎日運動を続けるよう心掛けましょう。
まとめ~筋力を鍛えること、しっかり安静期間をとること

変形性膝関節症の本態は、決して軟骨の摩耗だけではなく、それに伴う関節の中の炎症です。
この病気は、英語ではosteoarthritisと言い、さいごの「-itis」は炎症を意味します。直訳すると「骨関節炎」です。したがって、軟骨の摩耗をふせぎ、炎症が続かないように注意することが重要なことから、筋力を鍛えること、痛みや腫れがでた場合はしっかり安静期間をとることが、重要となります。
また、強い痛みが続いたり、まっすぐ伸びなくなったり、O脚変形が強くなると保存療法だけでは十分に歩くことができず、そのままでは筋肉や骨が弱くなってしまいます。そうした場合は、人工関節手術を積極的に検討することも大切です。
重要なことは、いつまでも自分の足でよく歩けること。変形性膝関節症の保存療法も手術療法も、このことが目的です。膝のことをしっかり知って、あなたの膝と日々の生活にお役立てください。

関節リウマチ

症例概要(症状・リスク)

両側の手首・足首や手指・足趾の関節が腫れて痛み、朝起きた時にこわばりを感じるのが典型的な発症症状です。対称性に起こる手・足の関節炎がこの病気の特徴ですが、膝・肘・股関節などの大きな関節にも広がり、進行すると痛みや変形のために日常生活に支障をきたすようになります。従って、発症早期に診断し、適切な治療を開始することが大切です。
どの年代でも起こりますが、特に20歳代から50歳代に多く発症します。病変が手や足にとどまる軽症型から全身の関節に広がる重症型まで症状は多彩です。自己免疫疾患に分類される病気ですから、関節炎の他に微熱、全身倦怠感、貧血などの全身症状を伴うことがあります。

治療・ケア
  • 保存療法

    関節リウマチ治療の主体は内服薬による治療法です。近年内服薬による関節リウマチの治療成績は飛躍的に高まり、多くの患者さんが満足のいく効果を実感されています。疾患の進行を抑制する抗リウマチ薬、免疫抑制薬、生物学的製剤、炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイドが用いられています。この病気は進行性に関節を破壊して重篤な機能障害を引き起こし、生命予後にも影響を及ぼすことが明らかになっています。従って、診断がついたら早期から積極的な治療を行うという考えが主流になっています。適度な運動やリハビリテーションにより筋力を獲得し、関節可動域を維持することも重要です。また温熱療法などによって関節痛を緩和する方法や、関節を保護して動きを改善する装具療法があります。

  • 手術療法

    腱の断裂や脊髄の圧迫は、手術による治療が適用されます。関節破壊による膝・股・肩・指関節の変形を伴い機能的に障害が生じている場合には、人工関節置換術が積極的に行われ、良好な成績が得られています。

大腿骨内顆(膝関節内顆)骨壊死

症例概要(症状・リスク)

膝関節の内側に突発的な痛みが生じます。
大腿骨への血流が悪くなり、大腿骨の内側の荷重部(内顆)にある骨組織の一部が壊死することによって発症する病気です。
夜間に痛みが強くなるのが特徴で、中年期以降の女性に多くみられます。徐々に運動や歩行などの膝に負担のかかる動作を行うと痛みが強くなり、次第にその痛みは強くなりますが、徐々に軽減することもあります。関節面に大きな陥没ができることもあり、この場合は手術が必要になります。

治療・ケア
  • 保存療法

    ダイエットに心掛け、できるだけ杖を持って歩きます。段差、階段などで踏み外したりしないように気をつけます。手術を行うタイミングを逃さないことが大切です。

  • 手術療法

    骨壊死による関節面の陥没が深い場合や広い場合には、荷重時の痛みが強く歩行が困難になることがあります。このような場合は手術が必要となり、膝のすぐ下で骨を切ってX脚に膝の形を変える「高位脛骨外反骨切り術」や、膝関節の内側だけの関節面を人工物に換える「人工膝関節片側置換術」、膝関節の内側外側両方の関節面を人工物に換える「人工膝関節全置換術」をします。どの手術が適切かは、膝や全身の状況をみて決めることになります。

偽痛風

症例概要(症状・リスク)

痛風は、関節内に尿酸の結晶ができることにより関節炎が生じる病気ですが、偽痛風は、石灰分の結晶が関節内に沈着することによる関節炎で、高齢者に多く発症します。
関節に強い痛みがおこり、よく発熱を伴います。大半が膝関節で発生し、それ以外では肩関節、足関節などの大きな関節で発生しやすくなっています。高齢者の原因が分からない発熱が、実は偽痛風によるものだったというケースが少なくありません。
急性の偽痛風発作は数日から1週間程度でおさまります。急性痛風発作のように突然出現して自然に軽快しますが、痛風より痛みは軽度です。

治療・ケア
  • 保存療法

    まずは安静と膝関節の冷却を行ないます。消炎鎮痛剤の内服がきわめて有効で1日から数日で炎症が治まり、確実に早期に炎症を鎮めたい場合、内服ができない場合などは、膝関節腔内注射(ステロイド剤)を行ないます。

  • 手術療法

    通常手術は行わず、保存的な治療で十分回復します。

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